インタビュー05

就活をしないまま大学を卒業。
知識の薄さを感じて高等技術専門学院へ。

子どもの頃から絵を描いたり何かをつくるのが好きで、自分が楽しいと思えることをして生きていきたいと美大へ進学しました。専攻はプロダクトデザインで、素材加工技術や思考プロセスを体験的に学びました。卒業制作では木製の座椅子を選んだのですが、それは長く愛用される家具のデザインに魅力を感じたからです。カンディハウスとの縁は、旭川で家具デザインの仕事をしている先輩から「旭川で家具をやるなら」と紹介されたのが最初です。そのときはもう新卒の求人期間は終わっていましたが、企業見学の際に社長と話す機会に恵まれ、興味が強まりました。
卒業後フリーランスで活動を続けるうち、スタイリングにとどまる仕事への疑問と自身の力不足を感じて、1年後に旭川の高等技術専門学院の造形デザイン科に入学。木材の知識から加工まで、実践的な家具づくりを2年間みっちり学び、改めてカンディハウスの採用試験を受けました。

入社してすぐ仕事を任せてもらえた。
今はデザイナーと製造現場の中継役に。

大学と専門学院で学んだことは、すぐに現場で生きました。入社11年目の現在は、外部デザイナーから提案されたデータを実現可能な設計に調整し、製作図を引いて試作するのが主な仕事です。設計時にはデザイナーの意図を汲み取り、意匠を守りつつも生産性を考慮し、家具としての強度が担保された構造や仕様にすることが求められます。試作に入ると、材料や具体的な歩留まり(無駄のない材料の取り方)の検討、製造のしやすさ、使用する機械など考察は多岐にわたります。ただつくるだけではなく美的感覚も必要です。気を遣うのは、たとえば生産性を高めるためわずかにデザイン(形や考え方)を変更する場合。デザイナーの理解が得られるよう、特徴的なデザインであるほど交渉には留意しなければなりません。生産性を重視しすぎると製品の魅力が失われてしまうこともあり、そのバランスが難しいところです。
私が所属する技術開発は、とにかくさまざまな立場の人と話す部署です。デザイナーと工場、双方の立場を尊重しつつ、お客さまに納得していただけるものをつくっていく。当然、経営者からは経営方針に則っているか問われますし、営業の人の立場や意見も考慮します。社外の方とのやりとりも頻繁で、常に板挟みですから(笑)対人能力は不可欠です。私事ですが、幼少期から親の転勤で3年に1回転校していました。クラス替えなんて甘い甘い、僕の場合は街が入れ替わってましたから(笑)。あの頃はイヤでしたけど、思えば初対面の人と話す能力はそれで培われたのかも知れませんね。

「誰もやってないことやろう」
難しいほど燃える先輩の姿勢に導かれて。

大変だった仕事、と聞かれると困るくらいたくさんあります(笑)。たとえば「KINA LUX[キナ ラックス]」(写真参照)のあの造形は、どうつくるか先輩達とずいぶん考えましたね。木を曲げること自体がそもそも難しいのに、それで球形状をつくるのですから。相当工夫しないとシワが寄ったり裂けたりします。最終的には成型したパーツ数十個を組み合わせたのですが、その成型のための治具(加工用の補助工具)がまた奥深い。木をNC加工機で削って型をつくり、表面に電極層を設けて高周波を通します。これには木だけでなく電気や金属、ときにはFRP(繊維強化プラスチック)の知識も必要になってきます。毎日学びの連続ですが、考えて工夫するのは面白いですね。
「キナ」を含めて「国際家具デザインコンペティション旭川[IFDA](※)」の応募作の試作や製品化は、新規性があるぶん旭川家具のメーカーの技術力を確実に上げていると思います。「できない」と言ったらそこで終わりなので、力を合わせて挑戦してきました。同じ部署に、旭川にあった北海道東海大学(現東海大学)の一期生がいて、その人は絶対に諦めないし、いくつになっても好奇心と探求心を忘れない。大先輩のそんな姿勢を日々見ることが、僕にとってはとてもよい刺激になっています。
※「国際家具デザインコンペティション旭川[IFDA]」は、新しい生活文化の提案と発信を目的に1990年から3年に1度開催されている、世界的にも珍しい木を主材とする家具アワードです。2021年までの応募総数は世界77の国と地域から9433点、そのうち50点以上が旭川家具として製品化されています。

日本人として、どんなものをつくるべきか。
これから探っていって、形にしたい。

カンディハウスが理念に掲げる「和の美意識」というキーワードは、僕の志望動機とも一致していました。というのも、せっかく日本人に生まれたのなら、その文化の中から独自なものを生み出してみたいと思っていたからです。日本らしさってなんだろう?それを知りたいし、いつか形にしたいですね。
ふと営業の経験もしてみたいと思うときがあります。営業の人の立場や気持ちを理解したいのと、何よりつくる現場にはお客さまの声がダイレクトに聞こえてこないので、自分が何をできたのか、何を表せたのかを直に知りたいです。あと役員にもなりたい(笑)。上に行くほどいろんなことができそうだし、先人達のやってきたことを次世代にしっかりと伝える役割も果たしたいと思っています。
入社してすぐ、創業者の長原實さん(故人)に聞いたことがあります。「どうしたら長原さんのようになれますか?」。そしたらひとことだけ、「まっすぐに」と言われました。目的を決めてひたすらまっすぐ進みなさい、と言う意味だと思います。僕は好きなことには粘り強くコツコツ続ける性格なので、その言葉通りまっすぐ行こうと思います。僕の息子と娘はまだ小さいのですが、彼らの将来についてもいろいろ妄想が広がります。NASAに入って宇宙がどうなっているか見て来てほしい。建築家も悪くないし、映画監督もいいな。子ども達の未来のためにも頑張りたいですね。


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